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吼える月
第12章 心願
 

「痛い、痛い、痛い……っ!!」



 目の前には、痛みにもがくユウナ。

 リュカが、自分達を見間違えるはずはない。


 それを知らないサラではないだろう。


「なんで、なんで俺の……姫様のペースでやらせてくれねぇんだよ」


 ぎらぎらとした眼差しで、サクは舌打ちをした。


 
 考えろ。

 考えるんだ。


 ここを突破出来る方法を。


 最悪の状況を、どうすれば生延びられるかを。




「――……。最悪……でもねぇな。逆に有利かもしれねぇ。完全に鎮めてしまっていたら、正気の姫様を乱れさせることはできねぇし、なによりこの……紫の瞳の姫様の色香は半端ねぇ。

……やるしかねぇか」



 サクは疲れたような顔をしながらも、好戦的な光を目に宿す。



「……イタ公、頼みがある」

『……リュカとやらに感じさせぬように、力の制御がまだ出来ぬ小僧の力を、ひととき隠せばよいのだな』


「はは……なんだ。そのつもりに来てくれてたのかよ。随分とお節介なイタ公だ」

『ふん。我は食餌をとって気分がいいのだ。……タダではないからな』

「がめついイタ公め。だけど覚悟してるよ。今、俺が玄武の力を宿していると気づかれたら一巻の終わり。平々凡々のタイラは……そんな力ねぇしな」


 複数の足音が大きくなる。


「呪詛の相殺が出来ねば、姫様は狂い死にの可能性が高まる。死に至る前に、どうにかして周囲に納得させねぇと。だがそのためには、姫様を痛みよりも快楽で乱れさせねばなんねぇ。はは……初心者には高すぎる壁だ」



『……気分がよいついでに、小僧。我がひととき……その娘の情欲を高めさせよう』

「そんなこともできるのかよ」

『……欲に走る"あやつ"の記憶を辿ればな。せっかく嫌々渋々あやつと融合させられたのだ、まだ完全ではないが、使えるものは使わせて貰おう。我がこの姿でできるのは、それくらいまでだ』






 そして――戸が開かれた。




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