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吼える月
第12章 心願
 



「サクは……あんな長髪の野獣じみた男じゃない。顔が違う体が違う。なにより、ユウナ相手に……あんなに粗野には抱きはしない」



 どこまでも苦しげな声色――。



 そして逆に兵士達に尋ねる。



「どうですか、あの女は……色狂いの貴方達が相手にした、ユマという女ですか」



 上げられたリュカの面持ちはどこまでも無表情。



「そっくりだ。あの誘う顔なんて特に。いや、それ以上だ」

「もうどっちだっていい。誘ってやがんだよ、あの女も」


 冷静に、リュカはまた問うた。


「あの男は、貴方達が見たサク=シェンウですか?」


 やはり無表情で。


「いや、もっと体が小さかった。あんなに逞しくはないし、遠目だが顔つきも違う気がする」

「ああ、なにより長髪ではないし」

「でも付け毛の場合もある」


 欲に猛る兵士達にリュカは提案した。



「だったら……男の髪を毟りましょう。それでもしも本物の髪であれば、ここは撤退します」



 兵士達は不満げな声を上げた。

 

「もしも付け毛であれば、謀ろうとしたあの男を捕獲。そしてあの女は、皆さんに処分を任せます」


 ひとりの兵士が頷いてリュカの横を通り抜け、男の後ろから……長い髪を毟るように引っ張った。


 兵士は付け毛であることを願い力を込めたが、髪は抜けることがなく……地肌までを強く引っ張られ、後ろに反り返った男のひと睨みに竦み上がって、その場で尻餅をつき……そのままの状態で手足を動かして戻ってくる。


 その始終にリュカは背を向けて見てはいなかったが、どんな結末になるのかは既に想定済みだったように――。


「では、帰りましょう」


 平然と終結を宣言したのだった。

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