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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
ユウナの勝気さは変わらずとも、さりげない仕草に淑やさと嫋やかさが混ざり、サクはそれに気づかないフリをしていながらも、内心、心が揺らいでいた。
リュカへの想いゆえの変化かと問いただしたくとも、そこで主従とはいえども誰よりも近い関係が終焉になるのが恐くて言い出すことが出来なかった。
なにより自分の想いに終止符を打ちたくなかった。
自分を惑わす香しい愛しき女の香りを間近で嗅ぎ取ながら、これは高嶺過ぎる花なのだと心を押し殺してきた。
ユウナ以外、誰もがサクがユウナに心奪われているということを知っている環境下、サクが動かないのは……自分がユウナの臣下である限り叶わぬ恋だと、最初から自認し諦観していたからだ。
出会いからして、対等ではなかった。
相手は黒陵の姫。
かたや自分は父が武神将で、ユウナと年が近いという理由だけで護衛に選ばれた。
ユウナに愛されればただの男として娶ることが出来る……そんなハンの言葉に心動かされた時もあったが、その時は既にリュカがいた。
ユウナのことを呼び捨てに接せられる男が。
ユウナとリュカの関係は始めから対等なのだ。
この屋敷に現れるようになった頃、言葉遣いを改めようとしたリュカに、ユウナはそれを禁じた。
だがサクに対しては、そんなことを一度もされたことがない。
ユウナにとって、サクは幼なじみという名の臣下であり、いかに武闘会で優勝しようが、恋愛対象となる"男"ではないのだ。
今までサクが姫様と呼んでそれなりに言葉を丁寧にしていたのは、父の模倣であり強要ではない。
長年そこから抜け出せずにいたのは、"姫様"の愛称に報われないユウナへの愛情を込めてきたからだ。
それが逆に、主従を強いる枷となって数年――ユウナに手を出したくてもその心を押し殺し、ユウナに想い人が出来るまではこの心を生かそうとしていた。
ユウナの恋した相手がリュカであるのなら、諦められる。諦めてみせる。
リュカ以外は、考えられない。
そこまで信頼しているリュカに、ハンは猜疑心を見せた。
――サク。リュカに目を光らせておけ。リュカがなにかおかしな動きをすれば、お前が止めるんだ。
それは上官の命令のように。
――ありぇねぇって。リュカが裏切るなど。
――……だといいがな。