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吼える月
第12章 心願
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大量のネズミを踏み潰し、煙幕めいた砂埃をたてながら、突然の武装した乱入者達は乗ってきた馬にて、黒崙から退散した。
その姿が完全に消えゆくのを見届けたサラは、安堵のため息をついて胸を撫で下ろした。
「ふぅ……。なんとか凌げたわね。それにしてもリュカがおとなしく、サクや姫様ではないと引き下がってくれてよかったわ。こんなにうまくいくとは思わなかった。まさかリュカの方が兵士達を説得するなんてね」
サラの顔は嬉々としていたが、隣に立つハンの顔は険しい。
「……ハン?」
逆に警戒を強めたようなハンの顔の強ばりに、サラは怪訝な顔を向ける。
「リュカは……、その場凌ぎの苦し紛れの即演に、簡単に騙されるような男じゃねぇぞ。慧眼で名高い、策略家。サクと同じ年でも子供じゃねぇよ、智将として多くの敵を頭脳ひとつで闇に葬ってきた抜け目ねぇ男だ」
その言葉は楽観視をしていない、厳しいものだった。
「え、だけど……リュカはサクと姫様ではないと、両手を拡げて兵士達を抑えたの、貴方も見ていたでしょう?」
「……だから、まずそこだ」
ハンは目に鋭利な光を宿らせて言った。
「リュカは恐らく……サクだとわかっている」
「え?」
「どんなに姿が変わろうとも、関係ない。リュカは初見で……しかも遠目で、後ろ姿だけで看破した。あいつは視覚ではなく、直感で気づいた」
「そ、そんな……」
サラの顔から血の気が引いた。
「だから当然、サクが抱いているのは姫さんだと気づいている。いかにいつもの姫さんとは思えねぇほどの乱れ様でも、紫の瞳に誰もが惑わされても。リュカは……その相手がサクだからこそ、姫さんだと確信を強めたはずだ」
――サクは……ユウナ以外を抱くことはない。
「つまり、サクが抱いているのは姫さんしかいないと、そう言ったんだ」