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吼える月
第12章 心願
「じゃあなんであんな否定的なことを……」
――なにより、ユウナ相手に……あんなに粗野には抱きはしない。
「別人だと言って両手を拡げて兵士達が近づくのを止めたのは……兵士達の目から隠したんだ、睦み合うふたりの姿を。……乱れる姫さんの姿を。或いは、自分が見たくなかったのか」
「そんな……。なにを今さら」
「そうだ。今さら、だ」
落ち着いた声音を発するハンとは対照的に、サラは動揺に瞳を揺らす。
「そんな……。親の私ですら、間近でサクを見ていても戸惑うほどの変貌ぶりを、入り口から背中を見ていただけで見破れたと!? しかもあんなに髪が長くなっていて、あれがサクだと思えたの!?」
「あの髪が本物だと思えばこそ、兵士達を引き揚げさせる条件にしたんだ。
もしもサクだという確信がなければ、女に飢えた野獣兵士達に、どんな女であろうが要求通りに与えようとはしねぇ。好きにはさせねぇよ。
大体、温和そうに見えて規律に潔癖なリュカなら、兵士達の暴走は許さねぇし、僅かな兵士達の要求を飲めば彼らをつけあがらせ、欲が際限なくなることくらい承知しているはずだ。統制が難しくなる愚行を、あのリュカがとるはずはねぇ」
サラの唇が驚愕にわなわなと震えていた。
「サクがどんなに変貌しようが、それに気づけるほどの付き合いだったんだよ、あのふたりは。良きにつけても悪しきにつけても。幾ら隠そうとして変装しても、互いに見破れる。理屈ではなく、本能で。
そして、サクとて姫さんの体を見せまいと自分の体で隠し、リュカだとわかりながら、代わりに無防備に背中を晒し続けた。そしてリュカは……そんなサクの背中を護ったんだ。今まで通りに」
「護った……?」
「ああ。それはサクが一番感じているはずだ。あいつらは、ああやって言葉に出さずに、互いの背中を自然に護り続けてきた仲だから。そうやりながら、姫さんを大事にしてきた」
「じゃあどうして!? リュカがサク達を追いつめているんでしょう!?」
「ああ。そうなんだが……」
ハンは難しそうな顔をして、目頭を指で押さえた。
「ここから出る時、リュカが……泣いているように思えた。
それがなにに対してなのかは俺にもわからねぇ。サクの敵となったことなのか、姫さんをサクに抱かれたことなのか。他に思うところがあったのか」
「………」