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吼える月
第12章 心願
「どんな葛藤があるにせよ、情に動かされるリュカではねぇだろう。動くくらいなら、祠官の心臓を食らい、姫さんを凌辱して呪いなどかけやしない。それを決行するだけの"志"があるのだとしたら、その覚悟の強さゆえに……危ないぞ、サラ」
「え?」
ハンは険しい目を細めた。
「ここで引いたのは情じゃねぇ。意図があってのこと。……リュカは、油断させておいて、兵力を強めてすぐにでも黒崙に攻めてくる。準備もさせる暇も与えずに」
「なんですって!?」
「サクが玄武の力を隠していたのが、不幸中の幸い。リュカは、サクがどんな状態かまでは気づいていないと思う。気づいていたら、サクをひとときでも放置はしねぇ。だが、姿からして異変は感じたはず。だから、武装した大量の兵士を投入して包囲する必要性を思ったんだ」
「武装……。近衛兵からサク達を護ろうとしてながら、どうして。それにハンは片腕の代わりに……」
「………。俺の片腕を代償にした約束を反故にする代わりに、示唆していったんだ。多分……去り際」
――ネズミが走るとは天変地異の前触れでしょうか。でしたら、すぐに洪水対策をしないといけませんね。唯一の港が壊されそこから大波でも国を襲えば、山や崖で成り立つ黒陵はひとたまりもありませんからね。
「……蒼陵に行き着く唯一の港を、すぐにでも封鎖する気だ。サク達を国外に出すまいと。だとすればただちに黒崙自体封鎖される。サクと姫さんを逃がさないようにと。
……もしかしてこの帰りにでも、すでにリュカの指示が出て、兵士達が囲んでいるかも知れねぇ」
サラは口を両手で覆って、絶望的な顔つきを向けた。
「……やばいぞこれは。今日中にでも、あいつらを旅立たせねばならねぇ。港が封鎖される前に」
「今日……そんな早くに……」
「ああ。武神将の儀式は、最後の仕上げに半日かかる。俺の中の力をサクの体に完全に移譲するには。……だが、この分をサクに渡すわけにはいかねぇ」
「……ハン?」
ハンは、サラの肩をぎゅっと掴んで、真剣にいった。
「サクと姫さんを黒陵から無事に出航させるためには、俺が食い止めねばならねぇ。そのためには、ひととき……力が必要だ。サクを……逃がすために」
ハンとサラは暫し見つめ合った。
そしてサラは頷いた。