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吼える月
第12章 心願
「……わかったわ。私は……ハンに従う」
「サラ、お前は無力な黒崙の民を護ってやれ。出来るだけ、俺が前線に出てここに近づけないようにはするが、取り囲まれていたら……」
「おいおい、ハンよ……」
突如会話を割ったのは、後ろに現れたサカキだった。
「無力ってのは、聞き捨てならねぇぜ?」
サカキは……大きな槍を手にしていた。
「今はこんなに情けねぇ体格だけどよ、俺、若い頃は……雑魚兵やってたことがあったんだ、白陵国のだけどな。だけどイザコザが面倒で、流浪の末に辿り着いたのが黒崙。平和で住み心地がよくて、それ以来俺はここで饅頭を売っていたがな。色々と荷物の持ち運びに扱き使ったサクには悪ぃが、俺は体力には自信がある。……ハンはわかってたろ?」
にやりと笑うサカキに、ハンは苦笑した。
「……ああ。ただの口のうまい商人の割には、度胸がありすぎる。それに街長がお前を移動の先導に据えたということは、お前は地理勘以外に集団を守れる力もあるってことだろう。それに……サクをお前の使用人のように働かせる割には、お前の体格はしっかりしている。俺のところの風呂に入りに来た時も、傷だらけだったしな」
「別にお前に隠していたわけでもねぇけど、言うほどのもんでもねぇし。過去のことだしな。街長は知っていたんだけどよ。ま、そんなこんなでさ、俺達……思う存分、街長の家で話し込んだんだ」
いつの間にか、サカキの後ろにはひとだかりが出来ていた。
「で、結論は満場一致。
――俺達も、黒崙で戦う」
ハンとサラは顔を見合わせた。