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吼える月
第12章 心願
「サクは俺達黒崙の民にとっては、息子みたいなもんなんだよ。その家族はやっぱり護りたいんだ。だからよ、サラ。悪いんだけど……お前が持ち出した"財宝"は、さっき皆で近くの街に売って、戦うための武器と籠城するための食糧に変えてきた。ま、各々の民も財産投げ打って、たんまりといろんな街から買いあさってきたんだけどよ」
「……っ!?」
集団は照れくさそうに笑っていた。
少し前までは、サクを追い出そうと罵倒していた民達が、今……我が身可愛さに避難をせず、それどころか危険を承知で、一丸となってサクを護ろうとしていたのだ。
その瞳には揺らぎはなく、覚悟を決意したものの強い光が宿されていた。
どの民もどの民も――。
「……姫に、感謝しろ」
サカキは、緩く作った拳をハンの腹に入れて、小突く。
「姫のおかげで、目覚めさせられた。姫がサクのためにあの場であの姿を晒さなかったら、俺達は今頃どうなっていたかわからねぇ。
俺達はたったひとりの護衛のために、あの野次の中で体を張れるあの姫を護りたい。あの姫は、俺達の国の姫なんだ。護るためには、どうしてもサクが必要だ」
サカキは一息ついて、そしてまた続けた。
「……どう考えても……俺達はサクを見捨てることはできやしねぇ。自分の心に、良心に、正義心に、逆らうわけにはいかねぇんだ。俺達は心がわからない野獣じゃない。……人間なんだからな」
「う……ううっ……」
サラは感極まって、口もとを両手で隠すと嗚咽を漏らした。
「正直、民のほとんどは兵力にはなんねぇけど、だけどココを使う」
サカキは笑いながら、自らの頭を指さした。