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吼える月
第12章 心願
「ここは俺達の街。黒崙に兵は、絶対入れねぇよ。好き勝手にはさせやしねぇ。その対策を、夜通し皆で練っていたんだ。
弱者は弱者なりの生存本能ってのがあるんだよ。多くの案が集まった。その図案やら、持ち込んだ武器やら道具やらで今、街長宅は溢れかえっている。
あいつら兵隊を絶対街長宅には入れるわけにはいかなかったから、ユマを探しに踏み込まれるかと、すげぇ焦ったよ」
「サカキ……」
ハンが泣きじゃくって言葉にならないサラの肩を抱いて、頭を下げた。
それに追従してサラも深々と頭を下げる。
「サカキだけじゃない。皆……どうもありがとう。息子のために……ありがとう。皆を危険に陥れることを承知していながら、その協力は必要ないと、一刻も早く避難してくれと……そう言えねぇ俺ですまねぇ。
リュカ達は……恐らく今日にでも攻めてくる。もっと言えば、今日最後の船が出る日没前までには。そして明日にはその港は封鎖されるだろう。そうなってしまったら、サク達に未来はねぇ」
思った以上の性急な段取りに、皆がざわめいた声を出した。
それと同調したように、ハンの声は震えていた。
「準備不足だから……少しでも時間を稼ぎたいんだ。サクと姫さんが、出航できるまでの。それには至る処にリュカの目を引きつけて、攪乱させる必要がある。
封鎖が先か、出航が先か。正直……確率は五分五分だ。だとすれば、少しでも早く封鎖を食い止めるための時間稼ぎをする必要がある。それには注視を別のところに向けねばならねぇ」
ハンは真摯な顔で皆を見回した。
「そのために……黒崙に陽動させたい。サクに力を譲った今の俺には、以前のような力が出ねぇ。……だがお前達を護る。それだけは約束しよう」
「私も……助力致します」
サラも涙を流しながら訴えた。
「お前達は俺とサラと護る。だが……もしもの場合は、俺達を置いて逃げて欲しい。命まで、俺達に捧げるな」
上げられたハンの目からは、涙が溢れていた。