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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
それ以来、それとなくリュカの動向は窺っていた。
リュカはユウナに頻繁に会いに来れないほど、多くの会議をしているわけではない。
会議だと言いつつ、ユウナを避けるようにどこに出かけているフシがある。
ただ、その放浪癖は昔からのもので、それにサクは気づきながらもリュカに問いただそうともせず、ユウナにも黙っていた。
リュカにはリュカの考えがあり、ユウナを悲しませることは絶対しないとリュカを信じ続ければこそ、リュカの行動を疑うような真似は、この友情にかけて見せたくなかったのだ。
祠官が部屋に籠ってなにかをしているのは確かだ。
術の強化のためかどうかは、サクには推し量れない。
祠官についてわかることと言えば、リュカ同様、昔ほど頻繁にユウナに会おうとしていないこと。あれだけ子煩悩だった祠官だというのに。
数日前。一度、リュカの横の祠官の姿を遠目で見た。
目が血走ったような、病的なものを感じて思わずぞっとした。
だが特に体が悪いようでもなく、むしろ以前よりもしゃんしゃんと歩いており、リュカばかりを傍に置くことの理由に紐付けせずにいたのだった。
そんな中、祠官命令でハン不在が多くなったこの玄武殿。
自分とリュカの提言で、4国一番の強固な護りに固められたこの屋敷の中において、すべてがリュカの意志ひとつで動くようになっている。
ハン同様……サクもなにか不穏な空気は感じ取っていた。
どこをどうとは言えない。
リュカはいまだ自分を護ろうと、友情を示していることもわかる。
だがなにか――。
リュカは自分達に言えぬものを抱えているような気がするのだ。
それは今、笑顔のリュカの影に顕著に感じられる。
そんなことをサクが思っている時、不意に忙しい靴音がして、ユウナの部屋がノックされる。
かしこまった侍女がユウナに言った。
「ハン様が戻られました。そして祠官がお嬢様とリュカ様、そしてサク様をお連れするようにと」
「祠官が……?」
リュカが怪訝な面持ちとなる。
「久々にお父様に会えるのね!」
手を上げて喜ぶユウナ。
サクは、リュカの翳った顔を訝しげに見つめながら、この呼び出しに、なにかの不吉な予感を感じずにはいられなかった。