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吼える月
第12章 心願
  
 

「もう一度言う。俺には以前のような力はねぇ。

それでもいいのか? そんな俺にいいのか? お前達の力を借りても、本当にいいのか……?」


 誇り高い最強の武神将がこうして、民の助力を乞うたのは初めてだった。

 力がないなどと、本来不安を煽ることを言わなくてもいいのに、ハンはその真実を隠さずに述べた。その潔さと誠意に民は理解を示した。


 それこそが、黒崙が誇る玄武の武神将だと。

 そんな武神将と心の絆で結ばれているのは、黒崙の民だけなのだと。


 だからこそ、民達は口々に言う。


「疑り深いな、ハンは。俺達に任せろよ!!」

「そうそう、いつも武神将には助けられてばかりだったんだから」

「こっちの作戦通りに行けば、絶対ハンも出番ないって」

「俺様が護ってやるから、せいぜい足手まといになるなよ? くぅ……一度言ってみたかった、最強の武神将に」

「武神将がいるから戦うことを決意したわけじゃねぇ。サクを護りたいからだ。あんたが強かろうが弱かろうが関係ない。元々俺らの作戦に、ハンは入ってねぇしな」

「ハンは黙って高み見物でもしておいで!! がはははは」

「だけど私達の作戦には目を通してくれよ。闘いの経験はあんたが上なんだから。穴があれば一刻も早く修復しないと」

「ハンの力をサクが持っているのか? すげぇ、俺達次期武神将を助けるのかよ。こりゃあこの貸しは高くつくぞ……?」



「本当に……本当に、すまないっ」

「皆様、ありがとうございます」



 民をここまで一致団結させて、協力的にさせたのは誰なのか。

 ハンにもサラにも、ただひとりの顔しか浮かばない。


 それは黒陵の姫だ――。

 あの時の、凜然としたユウナが民衆の心を惹き付けたのだ。


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