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吼える月
第12章 心願
まだまだ幼い姫だとハンは思っていた。
世間知らずで悪戯好きで無鉄砲でお転婆で、何度小さな尻を叩いて怒ったことか。
年上だろうとお構いなく、最初からサクをよく泣かせて困らせて笑っていた……そんな愛くるしい姫。おかげでいまだサクは泣いてばかりだ。
……間違っていない。
サクは、命を捧げて愛すべき主人を間違ってはいない。
ユウナは、主として……上に立つものとして、その器があることを見せたのだ。……それが今はまだ、片鱗に過ぎないとしても。
ハンは笑みを零した。
いつか自分も、ユウナに仕える時がくるだろうか、と。
そんな時が来るのなら、面白い世界になりそうだ。
きっと自分は瞬く間に、苦労の白髪が増えるだろう。
だがきっとそれは、泡沫に消える……楽しい夢――。
「ハン、サラ。謝るのは俺の方だ」
ハンの目の前でサカキは真面目な顔で頭を下げた。
「まずは、我が身保身にすぐにサクを保護しようと言えなかったこと。サクを攻撃しちまったこと。すごくそれを悔いている。それは皆も同じらしい」
一同反省したように項垂れていた。
「そして、うちの愚息のこと。サク達を……仲間を売るなど、一番してはならぬことをしでかした。気狂いになっちまったのは、天罰だ。
だから代わりといっちゃなんだが、街長から頼まれた、姫へ返還するつもりのあの指輪について、でたらめなことを押し通そうとして、逆に追いつめちまった、ふたりを。……兵士達が帰ったところを見れば、この建物の中でうまくやり過ごしたんだろうと安心したが、すべてはただの結果論」
「そんなことはない。お前の機転で切り抜けられたじゃないか」
「そうよ、私達はサカキのおかげで……」
「……そう、いって貰えれば、いくらかは心が軽くはなるがよ…。だが不穏さはますます強まった。コトが急く原因を作ったのは……俺と俺の息子には違いない」
ハンとサラは困ったような顔を見合わせた。