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吼える月
第12章 心願
「ハン……」
後ろから街長が出てくる。
その影に隠れていたのは、消沈した顔のユマだった。
「ハン、サラ。うちの娘がすまないことをした。嫉妬とはいえ……とんでもないことになるところだった。いや、とんでもない結果になっているのだろう。
うちの娘を、今から玄武殿に行かせようと思う。……まあ、娘から言い出したことだが」
「玄武殿に? なぜ……」
「姫様のふりをして、暫し……リュカ様を留めます」
ユマは大粒の涙をぽろぽろと流して訴えた。
「せめて、せめてサクが……出航できる時間まで、皆の作戦準備が整うまで、私がリュカ様の気を引きます。なんとか出兵を遅らせてみせます」
「そんな簡単にはいかないわよ。だってリュカは、姫様のことをよく知るんだから……」
サラが思わず、口に出した。
「やります。どうかやらせて下さい」
ユマはハンとサラの前で土下座した。
「私、サクを追いつめるつもりはなかったの。ただサクが、姫様と別れてくれたら……離ればなれになったら。それだけを願っていただけ……」
ユマは泣きじゃくった。
「サクを捕まえさせたいわけではないの。サクを……サクが好きだから!! だから私を見て貰いたかっただけなの――っ」
「ユマ……」
「あそこまで拒まれたら、もう私には望みはない。ならば。サクにとって、少しでもいい女でいたいんです。あんな最悪な女ではなく、だから、だからどうか名誉挽回させて下さいっ!!」