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吼える月
第12章 心願
そんな時、稽古場から悲鳴があがった。
一同何事かと驚きの顔を建物に向け、そしてハンとサラが中に駆け付けようと体を動かした時、ユウナが飛び出て来た。
乱れた髪。
はだけた服。
垣間見える白い肌――。
悩ましい……情事の名残を思わせた。
「違う、お前はサクじゃない――っ!! あたしに近寄らないでっ!! お前は誰よ!!」
追って出てきたのはサク。
こちらも長い髪を振り乱し、ほぼ全裸にて鍛えられた体を惜しげもなく晒す。褐色の逞しい肩には、血が滲んだ歯形と爪痕。
サクか? それとも別の男か?
どめよく民衆にも決め手はなかったが、その雰囲気はハンとよく似ており、ハンとサクを誰もが交互に見比べていた。
「――誰、だって!? 何度姫様に説明したと思ってんですか。三度目ですよ、三度目!! ワケあってこんな姿になりましたがね、これも数年後のまぎれもねぇ俺の姿なんです。付き合い長いんだから俺がサクだってことくらい、直感でもわかるでしょう、姫様!! つーか、無条件でわかって下さいよ」
「……あの言い方、サクだよな……」
「だよな、間違いない」
「ああ。ハンにそっくりだしな。なんであんなに髪が伸びたんだ?」
「……勿体ない。もっと落ち着いた口調ならば、私ころっといくのに。なんというかこう……性的魅力が倍増みたいな? あの逞しい胸に抱かれたい……みたいな?」
「本当よね。残念だわ……。口を開かねば別人のように、魅力的すぎる男なのに」
「……おいおいお前ら……人妻だろうが。隣で亭主がいじけてるぞ」
民衆は好き勝手にざわめく。