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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
呼ばれた謁見の間には、距離を取って立つハンの姿がある。
凱旋からの帰還の疲労を、労うことなく彼もまた祠官に呼ばれたらしい。
確かに、今までの祠官とはなにかが違うとサクは思ったが、ユウナは久しぶりに父に会えた悦びで胸が一杯のようで、飛びつこうとしたのを、すっとリュカが動いて遮った。
「祠官。お話とは……?」
甘い声音ながらも、そこに強張ったものを感じ取るサク。
ハンはただ傍観者でいる気のようだ。
「……ユウナ。来年の赤い満月の夜、婚姻の儀を執り行うのだ」
……そんな言葉が、祠官から出される前までは。
「え?」
驚愕に目を見開いたのは、祠官以外の者達。
リュカですら例外ではなく。
「民が不安がっている期こそ、祝い事をするのだ」
げっそりとした祠官の顔。
だがユウナを見る眼差しは、爛々としていてどこか異様で。
「だが私とて、可愛いお前が見知らぬ男へ嫁ぐのは忍びない。そこで、婿を取れ。
お前がよく見知った……リュカかサクか」