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吼える月
第12章 心願
そして――。
無我夢中で逃げまくった屋敷の外にて、群衆の前で捕まえてきた男は、堂々とサクだと名乗り……時折野次に怒鳴り出しながらも、ユウナの腕を掴んだままで言った。
「姫様……ちょっとは記憶はあるんでしょう? だったら、わかっているはず。姫様の生死にかかわる緊急時の治療です。呪詛の治療をしただけです。だから姫様は元気になったんです」
揺れた瞳をして、真剣に……そして悲しげに。
薄い記憶の片鱗だけで赤面し、サクに触れられるだけで意識してしまっているユウナとは対照的に、サクはまるで引き摺ってはいなかった。
だったら夢の出来事のように、なかったことにしてくれればいいのにとユウナは思うが、サクはそれも許さない。
忘れたい記憶を掘り起こしては、何度も何度も"治療"だと言い張り、境界線を強調してくる。
まるでユウナが、それ以外の理由であれば消えてしまうかのような、そんな悲壮感漂う切迫した物言いで。
そのたびにユウナが心苦しくなるのを知らずに。
「姫様、呪詛の……痛みの治療なんです。じゃなかったら……」
サクはやるせなさそうに笑った。
「姫様の嫌がることなんて、しませんよ。いくら何でも、俺だって……」