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吼える月
第12章 心願
自分は、嫌がっているのだろうか――。
ユウナは自問自答してみる。
恥ずかしいけれど、相手がサクだったということに安心出来ている部分の方が大きい。どんな理由で始められた"治療"にしても。
痛みに苦しんだ記憶はある。
生死に関わる呪詛……と言われても、否定的要素は浮かばない。
凌辱されたという被害意識は全くなかった。
嫌悪感もなにもない。
あるのは、やけにすっきりとした爽快感。
そして――。
体に燻る、情事の残り火。
決してサクが責任を感じることはないのだと、むしろ助けてくれてありがとうと、それを伝えたいのに素直に口から言葉が出て来ない。
恥ずかしいのだ。
幼なじみで大切なサクに、そういう関係を強く望んでいるふしだらな女と思われたくなくて。
……身も心も穢れきってしまった、淫らな女だと思われたくなくて。
だから、サクから逃げたいのだ。
そんなユウナの躊躇いを知らずに、サクは言う。
「俺は……姫様の従僕ですからね」
あくまでこれは"仕事"の一環だと、サクは空虚に笑い続ける。
従僕として仕方が無かったのだと、不可抗力的な"仕事"だったのだと、暗に匂わせる。
"従僕"……。
ユウナの胸の奥が、軋んだ音をたてた。
「サク、あたしは……」
「知りません」
「あたしはサクを」
「俺はなにも知りません」
置き手紙を見ていないはずはない。
だが、サクはなかったように振る舞った。
「俺が弱いから嫌だというのなら、これからの俺を見て下さい。俺の未来に期待してください。俺は姫様から離れません。姫様がどんなに逃げようとしても、俺は追いかけます。絶対に――」
サクの目は――
「俺は、姫様のものです」
従僕を超えた男のものだった。
「俺は、貴方についていきます。世界がたとえ姫様の敵に回っても、俺は死ぬまでお側にいて、お守りします」
サクは地面に跪(ひざまず)く。
「――我が主は、ユウナ姫だけですから。
共に在ることだけが……俺の心願」