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吼える月
第13章 献身
シェンウ家――。
ハンの私室は静寂に包まれていた。
文机にて小筆を紙に走らせているのはハン。
その横には、反対側を向いて座るサク。
サクの身形はきちんと整えられ、傍らには旅立ちの荷物もある。
奇妙な静寂を破るように、サクはぼそぼそと口を開く。
「……皆の好意に甘えて、本当に街の皆を巻き込んでしまっていいのかよ。皆の心は嬉しいけどよ」
「………」
「な、なぁ……皆の考え出した作戦、面白そうだな。でもそれは俺達を逃がすためであって、俺が面白がるのもどうだか……」
やはりハンからは戻る言葉はなく、またもや沈黙が続く。
「実はさ、さっき、またユマの傷を抉ってきちまったんだ、俺……」
――これで最後にするから。だからサク、私を抱いて? ねぇ、姫様で満ち足りなかった消化不良感を、私の体で!! 性処理の道具でいいから!!
――出来ない。……自分の体を大切にしろ、ユマ。
「それでもさ、あいつ……姫様に泣いて謝るんだ。身勝手なことをして八つ当たりして、追いつめてすまないと。自分の行いを恥じていると。
言ってることとやってることがちくはぐのような気はするけど、きちんと反省して謝れるのが俺の知るユマ。だけど妙に胸が騒ぐんだ。ふった俺が言うのもなんだけど、時折姫様に見せる陰鬱な表情が。
そんな状態で大丈夫なのかな……リュカの引き留め。出て行った時は落ち着いてはいたけれど、なにか気になるんだ…」
「………」
「………」
「………」
「……なあ、お袋と姫様、どこに消えたんだよ。支度って、なんで家から出る必要があるわけ? 帰ってこねぇから、旅立てねぇじゃないか。しかも俺、なんで皆の手伝いさせて貰えねぇの?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……ぷ」
ハンの口から、軽快な空気が漏れた。