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吼える月
第13章 献身
「……親父。言いたいことがあるなら言え。なかったら、ジウ殿の書状を早く書いてくれ!! 皆が俺達を助ける準備してくれて大変な時に、なんで親父は、にやにやにやにや俺の顔ばっか盗み見て、筆を進ませないんだよ!!」
「お~、その理由をようやく尋ねてくれたか、サク。先刻からお前、俺から顔をそらして、わざとらしいほどにまるで本題に触れようとしねぇから、父としては寂しかったぞ?」
ハンはにやりと笑って、サクの肩に手を置いた。
「お前、つけすぎだ」
「あ?」
「先刻。風呂場で姫さん、サラと騒いでいたぞ」
――きゃああああっ!! なに、あたしの体なに!? 特に胸、この赤い斑点はなに!! サラ、サラっ、ねぇなにこれ!!
――……え、ああ、ん……あ、そうだ虫刺されです。あそこ虫が多いから。随分と情熱的な虫ですね、ちゅうちゅうちゅうちゅう、姫様がよほどおいしかったんですね、おほほほほ。……やりすぎだ、馬鹿息子。
――やぁぁん、気持ち悪い虫。きちんと退治しないと!!
「――だと。いやぁ、可哀想にな、馬鹿息子。せっかくお前、堪え忍ぶだけではなく、激しく自己主張して、初めて睦み合った記念の痕跡をつけたというのに、お前、姫さんにとっては虫だと。身元不明の、色気だけはある怪しい虫だ。
しかもこれから旅立つというのに、あれだけ姫さんに忠誠を誓ったのに、いまだ解雇の撤回はおろか、ロクに喋っても貰えねぇ哀れな虫だ。あははは」
どんよりと落込んで沈み込むサクに、ハンは肩を揺すって大笑い。