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吼える月
第13章 献身
「俺の中にある玄武の力を完全に移譲する時間はねぇ。移譲した後も慣れるまで、お前が苦しむことになるのなら、その力はすぐに旅立つお前には枷となる。
武神将の力は一子相伝。そして本来、どんな配分にしろ、二代に渡り力を持つことは許されず、そのため緊急時に備えた特別な移譲方法がある。
今、それをやりたいところだが、街の民がいるとなれば、俺はこの力で民を護らねばならねぇ。そしてこの現状がリュカに知れれば、少ないとはいえどもこの玄武の力で、反乱分子として俺は死ぬことになるだろう」
「そ、そんな!! だったら俺、なんのために!!」
勇ましい美丈夫な姿でも、相変わらず血相を変える息子に、ハンは愉快そうに笑った。
「俺は無駄死にしねぇぞ。死ぬ時は意味がある死に方をしてぇんだ。それに今死んだら後悔だらけ。俺には、お前の弟と妹を作るという野望がある」
「……それこそどうでもいいじゃないか」
「よくねぇよ。今度は頭のいい、お前の支えとなる身内を作れば、俺やサラが老いて死んでも、お前の足りねぇ頭脳を支えてくれるだろう」
「……なんだよ、それ!!」
「だから、お前の無事の出航を見届けてからタイミングを見計らい、遠隔的にお前にこの力を移譲する。
できるなら避けたい方法ではあったが、そんなことも言ってられねぇ。すべての力が移行しないうちは、武神将はまだ俺だからな。お前が武神将になったら、船の中でもさっさと姫さんと契約して、リュカから身を守れ。時機を見誤れば、すべては水の泡だからな」
「わかった……」
「これが、ジウ殿の書状。そしてこれが、俺から力を受け取った後のお前のすべきこと、諸々だ。姫さんと行う武神将の儀式は無論、武神将としての心得も書いてある。わからないことは、ジウ殿にでも聴け」
「……親父……色々ありがとうな」
目を潤ますサクに、ハンは笑いを見せたのち、急に顔を強張らせた。
「で、だ。サク……実は俺は、お前に謝らねばならないことがある」
「なんだ?」
サクは、急に見せつけられた……尋常ならざらぬ父の真剣さに、半ば気圧されながらも、神妙に聞き返した。
ハンは、バツの悪そうな顔で告げる。
「お前が監視してろと言った……亀がいなくなった」