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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
 

 緊張感漂う空気が流れた。


「恐れながら祠官。それは……」


 まるで思いつきのような安易な取り決めに、ハンが異論を申し立てようとした時、祠官は持っていた扇を叩きつけた。


「私に意見をするとは何様だ」

「申し訳ありません」


 そんな父の姿を見て、ユウナは泣きそうな顔になっていた。

 母の悲しみが深いあまり、父は精神をおかしくしてしまったのだ。

 あれだけハンを大切にして、いつもにこやかだった父の顔はまるで鬼のようだ。


 変貌をリュカは知っていたのだろうか。


「ユウナ。それともお前は、このハンに嫁いでみるか?」

「ご冗談を!! ハン様は妻帯者ですっ!!」


 蒼白のリュカが慌てて口を開いた。

 だがリュカに対しては、祠官は怒る様子はない。

 むしろ表情が柔らかくなったほどで。


「どうする、ユウナ」

「そんな……。突然言われても……」


 ユウナは、リュカとサクを見た。

 ふたり共、強張った顔で身を固めている。


 助けがありそうにもない。


「どうしても今、どちらかを選ばないといけないのなら――」


 ユウナは長い沈黙の後、意を決して口を開いた。






「……リュカを」






 ひとりの男の名前を。


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