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吼える月
第13章 献身
その頃――。
ユウナはサラと共に街長宅の厨房にて、"おにぎり"を作っていた。
街を巻き込んでの大騒動。
街の民の安全を確立するためにと、ユウナはいまだひとりでこっそりと街を出ようとするのを、見透かしたかのようにことごとくサラに捕まり、監視の目を欺くことが出来ずにいた。
――姫様、お手伝いをお願いしていいですか? 街の民におにぎりを。
しかもサラは、ユウナの懐柔方法を心得ている。
誰かのためにと助力を申し出れば、ユウナは破顔してふたつ返事で快く了承して、それに傾倒するのだ。
「ねぇ、サラ。どうしてあたしが握るご飯は"赤飯"なの? サラは白米なのに。なんだかお祝い事みたい」
「まぁ……気になさらないで下さい。それより、ごめんなさいね、姫様。家から連れ出してしまって……。折角街の皆が、ハンとサクに話をさせてやれと、気を使ってくれるものだから。私……? 私はいいわ。その分ハンがサクに語りかけているでしょうから」
サラは少し寂しげに微笑んで、綺麗な三角型のおにぎりを皿に乗せると、次を握り始める。
旅立つサクとユウナのために、黒崙の民は、サクとユウナ、そしてハンとサラに準備を手伝わせなかった。
その時間で、暫く会えない分の別れを惜しめと、気を使ってくれたのだった。
ユウナが皿に置いたのは、やはりいつまでたっても崩れた歪なもの。
「やっぱりうまくいかないわ……。こんなの誰も食べてくれない」
うまく握ろうとすればするほどに歪に崩れゆく、見るも無惨な赤飯のおにぎり。色々考えながら挑戦しているのだが、どれも惨敗。
「サクがいるじゃないですか。サクはそれはきっと美味しそうに食べてくれますよ?」
それを見て嘆息をついたユウナは、重々しい口調で訴えた。
「サラ……。ねぇ、やはりあたし、サクを連れてはいけないわ。サクはここにとって必要よ。街の民にも、ハンにも、サラにも。それにユマだって、あんなにサクのことが好きなのに……」
するとサラは微笑む。
「姫様にとってはどうですか? サクは必要ないですか?」
「あたしは……」
ユウナは口ごもる。