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吼える月
第13章 献身
「確かにまだまだサクには荒削りなところがあり、お側に置いておくのは心許ないかもしれませんが、それでも……」
「心許ないわけないじゃない!!」
ユウナは叫ぶ。
「あたし、何度もサクに命を救われてきているのよ。苦しい時には必ずサクがいてくれて、サクがあたしを引っ張り上げてくれた。サクがいなければ、あたしはこの世にはいない。
だからこそ。サクに依存しているあたしから解放されて、サクは幸せにならないといけないの。このままだとあたしはサクの好意に甘えてずるずるとサクを引きずり回して、苦しませるだけだわ」
「それを、サクは嫌がってましたか、姫様」
「サクは言わないわよ。口は悪いけど、優しいから……」
「私はね、姫様。サクの幸せを願い、ユマとの婚約を勧めてきました。ええ、嫌がるあの子には内緒で。ハンにも余計なことをするなと言われながら。
サクが途中からなにも言わなくなったのが、いちいち拒絶するのが面倒だからというより、それで納得してくれ始めたのだと思ったんです。そう、普通に家庭を持つことが、サクの幸せだと思ったんです」
再びサラは、綺麗に握られた白いおにぎりを皿に置いた。
「ですがね、サクが思う幸せはそんなものじゃないのがはっきりわかりました。結局私がしたことは、誰の笑顔を引き出せるものではなく、サクと姫様をこうして性急に黒陵から追い出す形となってしまった。
姫様もサクもユマも苦しめ、誰もそれで喜ぶものはいない。それを、サクが幸せだと喜ぶはずはない。そう思いませんか?」
「………」
「姫様……。サクとの縁を、紙切れ一枚で切ってしまえるような、そんなものだと思いますか? それでサクは喜んでいると思われていますか?」
「それは……」
「姫様の献身は、私達を思うゆえということは皆十分わかります。ですが、それにより、逆に不幸になる者もいるんです。たとえば、サクのような」
「サクは、不幸には……っ」
「姫様が思っているだけのことでしょう? それは……サクの幸せだと信じ込んで、縁談を進めてきた私と同じ。
サクやハンの言葉を借りれば"愛情の空回り"。"余計なお世話"です」
「そ、そんな……」
ユウナからさぁっと血の気が引いた。