この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第13章 献身
「連れて行って下さい、姫様。まだ今はどこをどう進めばいいのかわからぬ暗闇であろうとも、必ずサクが支えになります」
「………」
「嫌いですか、サクを」
「大好きよっ!!」
それは即答。
「大好きだからあたしのために……」
「おにぎりと一緒です、姫様」
サラは微笑んで、さっさと綺麗な形状のおにぎりをユウナの前に置いた。
「頭でごちゃごちゃ考えず、ただ気持ちを込めればいい。美味しく食べて貰いたいひとを思い浮かべさえすればいい。
さあ、姫様握ってご覧なさい。食べさせたいひとが、幸せな顔で食べてくれている瞬間を思い浮かべて」
「………。……まぁ!!」
それは初めて綺麗にできたおにぎり。
「今、誰に食べて貰いたいと思いました?」
「……サク」
照れ臭そうに、しかし素直に呟かれたその名前に、サラは実に嬉しそうに微笑んだ。
「それだけでサクは十分です。たとえ姫様のためにサクが辛い目にあおうとも、姫様がそうやってサクの幸せを考えて、サクのためになにかをして下さったのなら、サクはそれだけで……幸せなんですよ」
「……本当?」
「ええ。後で聞いてみてご覧なさい」
「……わかったわ」
そしてユウナはひとつ深呼吸をすると、急に真面目な顔をして、サラに向き直った
「――サラ、あたしは本当になにもできない。おにぎりひとつロクに作れない、姫とは名ばかりの世間知らずです。
だけど……もしサクが、そんなあたしでもいいと言ってくれるのなら。そんなあたしの傍にいてくれるというのなら。サクが……少しでも幸せを感じられるよう、あたしもまた……少しずつでも成長しますから」
ユウナは、サラに深々と頭を下げたのだった。
「貴方の息子さんを……私に下さい」
「ぷ、ぷぷぷ……」
堪えきれないというような……そんな声が漏れたのは、ユウナの後方。
ハンがきつく結んだ唇を震わせ、噛み殺した笑いに身悶えしていた。