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吼える月
第13章 献身
 



 おにぎりもろくに握れないユウナが、散切り頭のサクの髪を整えることも出来ず、見るに耐えかねて、サラが最後を仕上げた。


「ふぅっさっぱりした。やっぱ慣れた髪型の方がいいや」


 破顔したサクの片耳で、白い牙が気持ちよさげに揺れた。


「………」


 ユウナはできあがったサクを見た瞬間、惚けたように体の動きを止めてから、サクの顔を見ようとしない。


 いつも通りの髪型のサク。

 いつも通りなのは髪型だけ。


 最後の記憶より、ますます男らしく整った野性的な顔貌。

 滲み出る、大人の男としての色香。


 ユウナはぞくぞくした。


 治療とはいえ、そんな男にせがむようにして抱かれた記憶が離れない。

 気持ちよくて仕方が無かった感覚が、サクのあの甘やかな声が離れない。


 サク――。
 
 あれは、このサクだった。


 サクの方は、切り落とした髪のようにさっぱりと、治療以外の意味はないのだと、完全に過去のものとしているのに、自分だけは――


 忘れられない。

 消えて行かない。


 胸についた、赤い痕のように――。


 どうしてもサクを、今まで通りのサクだと思えない。

 どうしても意識してしまう。


 この男に抱かれたのだと。

 治療だと片付けられない。


 いつもと同じように見つめられると、体がかっと熱くなる。

 恥ずかしい。

 恥ずかしくてたまらない。


 だから――。
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