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吼える月
第13章 献身
「姫様、なんでまた"ぷい"ってし始めるんですか。ねぇ、俺達仲直りしたんですよね!? ……とは言っても、姫さんが勝手に"ぷい"ってしてただけですけど。今度の理由はなんですか、姫様!!」
意識されているということに気づかぬサクは、ただ戸惑いながらユウナを追いかけるのみ。
「おお、これは明るい兆しか? そうか、サクの変貌が姫さんを刺激したか。この調子でいけば結婚の前に姫さんに求愛されるかもな、サク。
……ただ問題は、そんな"いい傾向"の意味にこのふたりのどちらも気づいていないということ。ふたり共、睦み合ったことを治療なんていう理由ではなく、初夜だと捉えて意識しているくせに」
ハンは複雑そうにふたりを見た。
「姫様ってば!!」
「……しっしっ。あっちにお行き」
「姫様っ!? しっしはひどいです!!」
「……サクのくせに。サクのくせにっ!!」
ユウナはサクの胸倉掴み、背が高くなったサクを前屈みにさせると、
「なん……れ、ほっひぇひゅへるんでひゅかっ(ほっぺ抓るんですか)!!」
「お黙りっ!!」
どんなに男らしくなっても、やはりサクはユウナには敵わない。
どんなにあしらわれても、構って貰えるのが逆に嬉しそうだ。
「まあ…一緒の門出が嬉しくて仕方がねぇのはわかるがよ、今度こそは置いてけぼりにされたくねぇと必死になるのはわかるけどよ、サク……姫さんと出会った時に幼児返り……いや子犬返りしてるぞ? おお~ぃ、ワン公~」
ユウナと触れあうことが出来て顔を緩ませるサクには、ハンの声が届かない。
それでも構わずハンは、威厳が満ちた父親の顔で言う。
「これから新婚旅行に行きそうな、いい雰囲気のところ悪いがよ、浮かれている状況ではねぇんだぞ? いいかサク、男はどんなときでも女に現を抜かさず」
その説教を遮ったのは、サラだった。
「あら、ハン。昔の貴方だって、私の前ではかなりのものだったわよ? サクの方がマシだったかもしれないわ。まだ姫様の前で"固形"で居られる分」
「……。……溺愛に弱くなるのは、俺の血か? 俺のせいか?」
そうハンが嘆いた時、カランカランと鐘の音が鳴った。
それは準備が整ったという、街の民からの合図。
旅立ちの時間が到来したことを告げる鐘だった――。