この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第13章 献身
黒崙の民が、街の周囲に仕掛ける"罠"準備のためには時間が必要だった。
その時間稼ぎにハンが助言したのは、
――この一件で、恐らくリュカは、近衛兵の勝手な行動を許さねぇ。必ずなにかあればひとまずリュカの指示を仰ぐまで、勝手に行動するなと言い含めるはず。
兵という組織を束ねる立場からの、"穴"。
同じ場所にいない上下関係、或いは良好とは言えぬ別組織間の連絡伝達は、必ずなんらかの齟齬をおこし、遅延となると。特に、新たなる警護指令が出ているだろう今なら顕著に。
そのための港までのふたつの道の足止めに選ばれたのは、遠目からはユウナに似た背格好の少女ふたり。うちひとりはユマで、あとひとりは顔を外套で隠していた。
それに付き添うのは、武術経験がある細身の男。女装させ、やはり外套で顔を覆い隠す。
武殿からの通達が届く頃に鐘の音が鳴り響いた以降、彼らはその場を立ち去る。それを可能にするために、駐屯地にいる馬の綱を切って馬を暴れさせ、さらにはサク達が通る道には牛馬の糞を撒き散らす使命を帯びた街の民が待機していた。
鐘を鳴らす頃合いは、兵隊組織を知るハンが割り出した。
そして彼が言うには、
――近衛兵は自分達の"仕事"に絶対的な自信を持っていやがる。一度目を通した場所を、その後もちょくちょくと見返しはしねぇ。