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吼える月
第13章 献身
姫と名乗る女達を探索始める近衛兵は、直後にサクとユウナの探索を命じられたとしても、"その時その影も見当たらなかったからいるわけがない"と、改めての捜索はしないだろうと、ハンは推測した。
近衛兵は無駄に自尊心と見栄が強いから。
だがきっとそれはリュカも思うこと。
消えた怪しげな女達がサクを逃がすためだと気づいたリュカは、そんな傲慢な近衛兵に圧力をかけてでも、再度見直しさせるだろうとハンは踏んだ。
サクとユウナが無事に逃げられる時間があるのだとすれば、リュカからの再指令が下されるまでの間。
上層部と下層部の連絡のやりとりが遅くなればなるほどに、近衛兵が本気にリュカの命に従うまでの間、サク達は逃げられる。
消えた怪しげな女の影。
置き土産の騒動。
それが時間稼ぎだとリュカが気づくまでの僅かな間が、勝負。
さらに探索隊の数を減らすために、黒崙に陽動出来れば…分散された兵力では、仮にサクが戦闘状態になったとしても、乗り切れると。
ただひとつ、ハンには憂い事があった。
それは、ユマの昏い瞳――。
そして街長の姿が見えないこと。
だから彼は、もしもの時のために保険をかけた。
これは危惧で終ることを祈りながら。
そしてその危惧は、サクも感じていた――。