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吼える月
第13章 献身
「おぅ、あんたがイタ公さんか。これからサクを頼むぞ」
ハンは、ユウナの頭に座る"イタ公"に声をかけた。
サクが自分のところに居座れと怒ったのだが、イタ公はユウナが気に入ってしまったらしい。
――小僧より、この娘の方がいい匂いがするから。
――この変態イタ公が!!
――サク、なに怒っているの、可愛いイタ公ちゃんに。
ユウナの目からも子亀に見えるらしい。
そしてサラもそうだが、ハンにもやはり亀にしか見えない。
だがサクにイタチとして扱えと言われていたため、じろじろと観察しながらも、あえてその形状のことは口にしないでいた。
イタ公の表情はまったくわからない。
ハンの目からは、ただのそのそ動くだけの、つるつるの黒い亀だ。
『お主は、代々の武神将の中で一番、我に対して礼節を重んじ、私欲に囚われることのない見事な武神将だった。…たったひとりに向かう愛欲以外は。
あそこまで勇猛に戦える武神将が、どうしてそこまでくだぐだに蕩けてしまえるのか、我は不思議で仕方が無かったが……まあ、お主の功績に免じて目を瞑っておった』
イタ公の褒め言葉のような貶(けな)し言葉は、ハンには聞こえていない。
ただサクが、くぷりと笑いを漏らすだけだ。
『本来、我の力をあちこち分散させるのは許さぬのだが、我も特殊な顕現で力も本来のものとは言えぬ上、お主の"覚悟"を汲みして目を瞑ろう。だがお主には、全盛のような力は扱えぬことを心せよ。お主の中の我の力は、あまりに微弱すぎ……以前のようにお主が得意としていた、大量戦には向かぬ。疲弊するだけぞ。
小僧はまかせておけ。不安要素は多多あるが、それでも潜在能力はなかなかのもの。お主を超える武神将にさせて見せようぞ』
「そうかそうか、サクを頼まれてくれるか。ならば安心だ」
『ああ、大船に乗った気で居よ。ネズミの礼にお主の息子を鍛え上げてやるわ。びしばしと』
なにも聞こえていないハンにイタ公は気づいていないようで、それでも成り立つ会話にサクは苦笑した。