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吼える月
第13章 献身
ガランガランと鳴り続ける鐘の音――。
「サク――」
サラがサクを抱きしめた。
「絶対、姫様と生きなさい。そして……」
「ああ、わかっているよ、お袋」
サクは照れたように笑った。
「ちゃんと白髪染め、持って帰るから」
「違うでしょうが!!」
「え、いらねぇの?」
純粋な切り返しに、サラは煩悶するように顔を歪め、そしてもじもじとして答えた。
「い、いらないとは言ってないわ。そ、その……お土産に、買い占めてくれるのなら文句はないわ。ええ、早めにお土産届けにきて頂戴ね。多分暫く渡航できないとなれば、こっちに入ってこないから。こっちの在庫が尽きる前に」
「土産で買い占めをねだるのか!? そこまで!?」
「それだけの金は、荷物に入れてるわ。あんたの食費削っても買い占めるのよ。足りない分は、あんたの体を使って働きなさい。あんた無駄に体力はあるんだから」
「お袋……」
「まるで旅行に行くような軽い会話だな。そう思わねぇか、姫さん」
「ふふふ、だけどサラらしくていいわ。サラは本当に可愛い女性ね。ハンは幸せだわ」
「ああ。だから姫さんも幸せになれよ。ま、サクがいるから大丈夫だろうけど」
「あたしより、サクを幸せにしたいわ」
「求婚までしでかした、無自覚の惚気ってすげぇな。……ってサク、なに勝手に盗み聞いて顔赤くしてんだ。お前はサラと喋ってろ。ここは俺と姫さんの別れの場面だぞ」
「サク、熱でもあるのかしら。なんだか顔に締まりがないわね」
「く、くく……。姫さん、薬は持たせてるから、熱冷ましでも飲ませて、サクののぼせた顔をぐっと引き締めてやってくれ。あはははは。
さっきまではあんなに真っ赤だったのに、今はきりりとできる姫さんの方が勇ましいじゃないか。これが想いの違って奴か? 真っ赤を持続できるように出来れば、サクの勝利も目の前だぞ。ほらほら頑張れよ~」
「……っ、人ごとだとからかいやがって」
「護衛なら公私混同するな、きりっとしろ!! って言っても、お前まだ"元"護衛か。くくく……」
ハンが笑いながらサクの頭を小突く。
「ってぇ……。"元"を強調すんなよ」
ユウナはサクを連れ添えることは了承しても、いまだ解雇を撤回していない。揶揄めいた事実に、サクは嘆くようにため息をついた。