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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
「そうか。ユウナはリュカを選ぶか」
やけに高揚としている祠官の声が響き渡る。
目を瞑り、握った拳を震わせながら、天井を仰ぎ見たサク。
その全身からは悲痛さが滲み出ていた。
リュカは日頃の冷静さを払拭させて、慌てたように祠官に傅(かしづ)く。
「恐れながら。今一度、このことは白紙にして頂きたく」
「なぜだリュカ。お前はユウナが妻では不満なのか?」
リュカにここまで拒まれたことは、ユウナを動揺させた。
「いえ、そういうことではなく……姫にはサクが」
「ユウナはお前がいいと言っている。お前の気持ちはどうだ?」
込み上げる激情を押し殺しているような……見るのも憚れるような惨苦たる表情をしたまま、動かないサク。サクを背にしているユウナだけは、そうしたサクの表情が見えていなかった。
サク以外の視線が、突き刺さるかのようにリュカに向けられる。
反応がないリュカに、焦れたように声をかけたのはユウナだった。
「リュカ……あたしじゃだめ?」
ユウナの泣きそうなか細い声に、リュカもまた握った拳に力を込めた。
返事がないのが返事なのだと解したユウナの目に、ぶわりと涙が溢れる。
「ごめ……あたし、ごめんねっ!!」
泣いて飛びだそうとするユウナの腕を捕まえたのは、悲しげに笑うサクだった。
「姫様。逃げちゃダメです。逃げたら、欲しいものは手に入りません」
「サク……?」
「逃げたら……俺の二の舞です。……姫様。リュカに会えない時、どう思っていましたか?」
それは優しいながらも、心が痛くなる笑みだった。
「……会いたくて会いたくて、たまらなかった」
「会ったら……どうなりましたか?」
サクの誘導に、ユウナは心に閉まっていた真情をぽつりぽつりと吐露した。