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吼える月
第13章 献身
ガラン、ガラン。
惜別の終了を急かすように、鐘の音は止らない。
「……ハン、本当にありがとう」
「頭を上げろよ、姫さんらしくねぇぞ。言ったろう、姫さんは娘みたいなもんだって。いや……娘になるのか。なって欲しいな……俺としては」
「養女にってこと?」
「あはははは。それもいい案だが、さすがに恐れ多い。しかもそれだったらうちの馬鹿息子が……くくく、やっぱりふくれて睨み付けてやがる」
「……?」
「ま、姫さんはひとりじゃねぇってことよ。俺もサラも姫さんの家族だ。それだけは忘れるな。いつまでも、どこにいたって姫さんの味方だ。サクと共にな」
「ハン……」
「サクはまだまだ荒削りだが、素質は俺よりいい。サクは姫さんに献身すればするほど強くなる。だから気にせず、俺に代わってサクを鍛え上げてくれ。びしばしと」
「わかったわ、びしばし行くわ」
「姫様……そこ、拳に力入れてなんでえらく威勢いいんですか。イタ公といい、びしばしってなんですかっ!!」
「そして誰よりも強くなったサクを見せに、必ずあたしは黒陵に戻る。だからハン、サラ……」
ユウナはふたりを真剣な顔で見つめた。
「死ぬことは許さないわ」
ハンは目を細め、薄く笑った。
「死ぬわけねぇだろ、姫さん。サクの弟と妹を作るんだから、な。サラ」
「ええ」
ふたりは穏やかな満面の笑顔だった。
「だったら、抱っこさせてね。ふふ……楽しみ」
表情を緩ませたユウナとは対照的に、サクは顔を強ばらせた。
ガラン、ガラン。
狂ったように鳴り続ける鐘の音。
それは最早合図ではないことを、サクは感じ取っていた。
「親父」
「サク、行け。ここは、任せろ。皆の思いを無駄にするな」
サクがなにを言い出したのか、そしてこの鐘の音がなにを示しているのか、ハンも判っていた。
だが、ハンはすぐに笑顔を見せた。
「気にすることない。まだ俺は武神将だ」
「親父……。今の親父には、大量戦には向かないそうだ」
「ああ、わかってるよ。力がなくても武術で対抗する。伊達に前線にて戦い続けた経歴を馬鹿にすんじゃねぇぞ」
その笑顔が、サクの表情をさらに強張らせた。