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吼える月
第13章 献身
「せっかくタイラに街長の紋章を持たせて、娘を唆して巻き込んで、人さらいに拐かせた姫さんの所在の密告で株を上げようとしたんだろうが、ユマの暴走で狂いが生じた。
実行犯に仕立てようとしたタイラも狂い、もう思い通りに使える駒もねぇ。そしてその綻びは拡がり、民が主導に動くようになってしまった」
「ええ。だからユマから言い出したということにして、民の計画の要にユマを据えさせ、そして計画の頓挫を試みた。その手柄を独り占めしようとしたんだわ。
……ふぅ、ユマは本当にイイ子だから、きっと街長も変わるだろうと思って縁談も進めていたけれど、悪しき方に変わってしまったのは……ユマの方だった。まさかサクを手に入れたいと、兵士相手に痴態を働いて姫様に責任をなすりつけようとするなど、想像すらしていなかったわ。
今回筒抜けになったのは、街長かユマなのか、或いは双方のせいかはわからないけれど、この鐘の音は相当のものよ?」
「まあそれは想定済み。だからこそサクに選ばせたんだ、港までの道を。
願わくば、穏便に黒崙の民の勝利に終らせたかったのだが、そうもいかねぇらしいな。さて、リュカはどんな手できたのか」
そんな時、ばたばたと音がした。
初老の男が凄惨な顔つきでやってきた。
「ハン、ハン!! 大変だっ!! 警備兵が大勢で待ち構えていたんだ、サク達が通るはずの道に!! 近衛兵が着ていた鎧を着て!! 近衛兵は騙せても、姫とサクをよく知る警備兵は……騙せないっ!! これならサクは、サクはっ!! 死にに行ったのと同じだぞ!!」
男の取り乱した様子とは対照的に、ハンもサラも落ち着いていた。
その顔に浮かぶのは、諦観と……静かなる怒り。
「なるほど、俺やサクに馴染みある警備兵を使ったか。……足止めの娘達はどうなった?」
「……なんとか生きては戻って来た。だがユマと、ユマに連れ添った若い衆が戻ってこないんだ!! それだけじゃない。ユマを途中まで見送り行った街長も、姿がない」
ハンは片方の口角だけを吊り上げ、嘲るように笑った。