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吼える月
第13章 献身
「そして黒崙の周囲に播いた、大量のニガヨモギや落とし穴は……馬を使わないで来る警備兵によって無意味となった。しかもなんで罠をしかけた道を避けるようにして、街の民しか知らない獣道を通ってやってくる?
さらには、なんで野犬や烏が嫌いな特殊な香料や染料を、あらかじめ警備兵が身につけて来る!? あれなら野犬や烏を誘き寄せて攪乱させるための準備は水の泡だ。山を通るならいざ知らず、警備兵は、常にそんな対策をする兵士か?」
「いや、それはねぇな。警備兵は武術に特化した集団。山狩りには、傘下の別働隊がある。……間違いなく、漏れたな」
「しかも問題はそれだけじゃねぇ、むしろそれは可愛いもんだ」
男は引き攣った声で叫んだ。
「それより今、今――こっちにっ」
男は恐怖を体現したように大きく体をぶるりと震わせた。
「警備兵なんかより、まったく変なのが……大勢で来ているんだよ。サクが通るはずの道にも居たらしい。ユマの方の道は、ユマらがいねぇからよくわからねぇけど。俺も遠目でも、この街に近づいてくる不審な……変なのを確認した」
「変なのとは?」
「年寄みたいな骨と皮だらけの体して、腹だけ異常に膨れた集団だ。
"きぇぇぇぇ"とか"ひもじぃぃぃ"とか叫ぶんだよ、そいつら。それだけじゃねぇ」
男は狂ったように叫んだ。
「食うんだよ、人間を。生きたままっ!! ばりばりと、近衛兵も鎧ごと食っちまうのを、足止めの娘達もその場に居合わせた者達も目撃して、走ってなんとか命からがら逃げてきたようだ。そんな…生存者は皆……っ、発狂しちまっている!!」
「……ハン、これは……」
サラの険しい目を見ずに、ハンは壁を拳で叩きつけた。
「皆の献身が仇になる。
まさか――餓鬼が出てくるとはっ!!
餓鬼は……リュカの支配下にあったのか!?」