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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
「いざ会っても、リュカが前みたいにあたしを一番に考えてくれないことが寂しくなって、リュカの去っていく背中を見ると、きゅうって胸が切なく疼くの」
昔は違った。
もっと一緒に居たいと思っても、"またね"で笑って手を振って背を向けられたものを、今はずっと切ない気持ちで後ろ姿を見送っていた自分。
行かないで。
あたしを優先させて。
そんな我が儘を飲み込んでいた自分。
今でも蘇るその心の痛みは。
「あたし、なにか病気なのかしら。心臓が痛くなるのは」
サクは静かに微笑みを口もとに湛えた。
「病気ではありませんよ、姫様。それは……自然なものです」
まるでその痛みを見知っているかのように、一瞬苦しげに眉間に皺を刻み……乱れた呼吸を整えた後、彼はしっかりとユウナを見据えて言った。
「姫様は……恋をされているんですよ。……リュカに」
「恋……?」
それはユウナにとって意外すぎた単語だった。
知識として意味はわかり、年頃の少女として憧れを抱いてはきたが、こんなに切なくなるものがそれだと気づきもしなかった。
「これが……?」
「そうです。俺が言うんだから間違いありません」
「違うっ!」
顔を上げて、反対したのはリュカ。
「違わない。お前だって似たようなもんだろ。知ってるぞ、俺と一緒に居る姫様を時折盗み見るその目の意味くらい。……リュカ」
サクの声に、怯えたような目を揺らすリュカがびくんと反応した。
「これは俺にとっては想定内、これで俺も踏ん切りがつく。俺との友情のために、リュカ……ちゃんと答えろ。
お前は俺を思うから遠慮しているだけだろ。
俺以外の奴が姫様娶るとしたら。
お前は……他の奴に姫様を渡したいか?」
長い沈黙が続いた。
やがて、リュカは諦観したように肩を落として、
「渡したいはず、ないじゃないか」
ぽつりと言った。
「だったら!! 今、皆の前で宣言しろ。
姫様を必ず幸せにすると!!」
わざと荒げられたような声に、リュカは静かに顔を上げ……サクを見て、そしてユウナを見た。
「ユウナを……」
美麗なその顔は苦しげな色で彩られながらも――、
「必ず幸せにする」
紡がれる言葉は明瞭だった。