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吼える月
第14章 切望
そして、のろのろとした動きを見せていたそれらは、突如跳ね上がって襲いかかってくる。
「きぇぇぇぇぇっ!!」
サクは剣で薙ぎ払いながら、餓鬼化した兵士達を近づけさせなかった。
サクの動きにより、サクとユウナを中心にして、凄まじい風圧に耐えきれずに吹き飛ぶ兵士達の骸。身につけている強靱な武具すら、軽やかに宙を飛ぶ。
その時機を見計らい、片足で飛び跳ねたサクが次々とそれらの首を斬り落とす。
それは僅か数秒でなされた、鮮やかなる剣捌き――。
「……ちっ、しつこいな」
それでも、いくら細切れになろうとも……骸は動く。
サクの肉を引きちぎろうと、歯をカチカチ鳴らし続ける。
「餓鬼は群れると親父から訊いたことがある。玄武殿で見たのもそうだった。だけどここにはあの餓鬼の姿はなく、犠牲になった兵士の姿しか見当たらねぇってことはどういうことだ?」
サクは目を細めて考えた。
主犯者の姿がない。
群れで増殖する餓鬼達は、まだ食える残骸だけを残してどこに消えたのか。
しかも伸び放題の草は、大勢に踏み潰された形跡もなく。
明らかにこの兵士達だけが、この風景に突如飛び込んで来た異物だった。
「なんか腑に落ちねぇな。どこかで食われた兵士がここに逃げてきて、保護された途中で餓鬼化して駐屯所を襲ったのか? そうでなければ、餌を残して痕跡諸共に餓鬼共がぱっと消えてしまったのか、あるいは……こんな残骸以上のうまそうな食餌を見つけて、餓鬼だけが集団移動したのか。ここから近いのは……」
そしてサクは黒崙の方角を見つめて、舌打ちした。