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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
「リュカ……っ」
顔を手で覆い、感極まってさらに泣き出すユウナ。
「姫様。泣くとぶっさいくな顔になりますよ」
「……っ!!」
ユウナは慌てて手で目を擦る。
可愛らしい仕草をする愛しい姫の背中をぽんぽんと叩いて、サクはふっと真面目な顔つきになって言った。
「ならば俺も誓おう。大事な姫様とその夫となる我が友に、俺はこの命捧げると」
リュカとユウナの前でゆっくりと――、サクは腰を落とし片膝をつきながら、左手拳に右の掌を添えて頭を垂らす。
それは臣下の取る、宣誓の儀礼。
「サク=シェンウは、未来の黒陵祠官夫妻に生涯お仕え致します」
手首と首から、黒水晶が揺れた。
誰からも文句つけられぬほど見事な臣下の姿勢。
頑なな決意をもって示すのは変わらぬ敬愛と友情――。
だがサクの唇はわなないていた。
拳を押さえるその手も同様に震撼していた。
彼の強靱な意志では抑えきれぬほどの激情をもてあましながら、それでも必死にそれを押し殺そうとするサクは、くいと顔を上げてリュカを見た。
「姫様を、絶対幸せにしろよリュカ!! 約束だからな!!」
昔から変わらない屈託ない笑みを無理矢理作りながら。
「……ああ」
リュカも声を震わせながら、無理矢理に笑う。
潤む漆黒の瞳は、ユウナに向けられる。
「姫様、おめでとうございます! お転婆すぎる姫様を貰いたいという奇特な相手がいるのかどうか、俺内心ひやひやしてました。だけど、それがリュカであるのなら、姫様に長くお仕えしてきた俺も安心です」
いつものような軽口も、か細く震える。
「姫様は誰よりも幸せになれます。有言実行のリュカが……皆の前でそう約束してくれましたから!」
陽気に笑うサクの目から――
「今後とも、よろしくお願い致します。
――……従僕として」
一筋の涙が零れた。