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吼える月
第14章 切望
強まる金色の光。
近づいてくるのは……悍しいほどの美貌を持つ金髪の男。
忌まわしい色の腰まである髪を、堂々と風に靡かせながら歩いてくる。
日常から切り離され、異常と溶け合う異端者――。
ハンの力に集められた夥しい数の餓鬼達が、男の行く手を遮らぬようにと、道脇に移動し始め、そこで嬉々とした甲高い声を上げて体を揺らした。
まるで、体全体で男を歓迎しているかのように。
そして警備兵達も道脇に片膝をついて頭を垂らして傅(かしづ)いている。
まるで祠官か自分に対する敬意を示しているかのように。
だが、ハンの目には邪悪の塊としてしか映らなかった。
餓鬼より厄介なのは、その頽廃的な美貌を魅せつけて、見るものを堕落させることに悦びを感じる"意志"を持っているということ。
男から匂い立つ……情事の残香。
腰紐を腰にひと巻きしただけのはだけた襦袢姿で、裾を捌いてゆったりと歩いてくる。
その色香は――
ひとも魔物も惑わせ、従えさせる魔性の力だ。
彼が内在するその力に匹敵する程に、その艶は強いものだった。
それをわかっていながら、男は艶然と笑うのだ。
魔道へと引き摺り落とすかのように。
そして――。
「……お前が……倭陵最強の武神将か」
ハンを射程距離にして立ち止まった男は、艶めいたその声を、波動のように拡がらせて空気を震わせた。