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吼える月
第14章 切望
「もったいぶらずに自己主張してみろよ。ゲイという名前は聞いている。魔に穢れた者に……俺は今まで力を感じたことはねぇ。なんでお前からはそんなに力を感じるんだ。……餓鬼を蘇生させられるだけの力を、なんで今まで隠し持って生きていられた」
相手が支配者としての矜持があるのなら、そうしてきた環境に意味があるのではと突いてみる。屈辱的な環境から、虐げられたものとしての怒りの感情を呼びさませられればと。
だが――。
「ほぅ……お前、力なき者だとわかりながら、"魔に穢れた"と虐げてきたのか、遮煌とやら理由をつけて。この国の、いや倭陵国全体の"秘密"を怪訝に思いながらも、弱き者を虐げる理由も見つけられず、強き者に従う。
"秘密"を知り、世の理を正しき道に戻そうとするリュカの行いを、魔道に"唆す"としてしか真実を見れぬ男が、倭陵最強と褒め称えられているのは笑止な。国を護る武神将とはいかなるものぞ。お前の正義は……いずこに」
相手の方が一枚上手。
ハンの口車に乗るどころが、逆に突いてきたのだ。
ハンが常日頃抱いていた、武神将としての"迷い"を。
予言のためになぜ弱き者達を殺さねばならないのか。
本当に予言を信じていいのか。
それは、私情。
国を護るためには消さねばならぬ、大事の前の小事。
迷いながら皇主や祠官に従って、その手を血に染めてきた。
本当にこの者達に罪はあるのか。
そう、自問自答しながら――。
だから逃したリュカという存在。
そのために起きてしまった予言。
これは、自分が引き起こした人災だ――、そうハンが悔いていればこそ、金の男の言葉は彼を惑わすものとなる。
「弱き者が、虐げられる理由になるというのなら……」
男は笑う。
「玄武の力のないお前は、余が虐げる正当な理由になる」
残忍なまでに美しい笑みで。