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吼える月
第14章 切望
「サク、その力……父に貸せ!!」
ハンは姿なき息子に叫んだ。
「偉大なる玄武に願い奉る。
我の片目を代償に今ひとたび、その息吹、玄武の武神将ハン=シェンウとその妻、サラの刃に宿り賜え!!」
親子だからできること。
最強の武神将として玄武に愛されたハンだから出来ること。
「ハン――!?」
ハンの右目から血が吹き上がった。
「大丈夫、サラ。俺は大丈夫!!」
かつて自分の中にあったその馴染み深い力の制御に回るハンは、その力の一部を引き出して自分とサラの刃に流した。
水流の飛沫が、雨滴が……刃に降り注ぎ、冴え冴えしい光を宿す。
「お、お前……なにを――っ!?」
「悪ぃな。折角俺から玄武の力を奪っても、武神将には……濃い血の繋がりによって成し遂げられる、嘆願の儀っていう最終手段があるんだよ。片目さえあれば十分。片目さえあれば、未来を見れる」
「ハン、ハン……」
「泣くなサラ。俺は生きている。生きる為の片目ぐらい、安いものだ。さあ、サラ。お前も感じるだろ。それが玄武の力。
俺とともにあって、これからサクと共にある力は、今は……お前と共にもある。熱いだろ。俺達家族は、熱い絆で結ばれている……!!」
「これで私も、本当の意味で玄武の武神将の妻に、母になれたのね!!」
そしてふたりは頷き合って跳ねた。
濡れた昏い景色の中、ハンとサラが絶え間なく繰り出すのは鋭い風刃。
金が纏う穢れた者達を切り崩しに行く。
中核にいる、金を消すために。
邪に護られる金色はまた……揺れる。
勢いを盛んにさせる前兆か、消える前兆か――。