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吼える月
第14章 切望
片腕で片目とはいえ現役の屈強な武神将と、退役したとはいえかつての勇猛な闘いを見せる元武神将の息の合った連携技に、警備兵や餓鬼だけではなく、地面や木々も音をたてて崩れゆき、地に還る――。
水は癒やしだと――ハンは父から習った。
大地と繋がり人々を包み込む海は母と同じ。
母の胎内に包含されている我々は、常に母の愛に満ちていると。
作物に実りを与える慈雨。
古きものを作り替える豪雨。
すべては水の恩恵にあり、そしてその水を司る神獣こそが玄武なのだと。
勢いを弱めながらもまだ降り続ける雨は、敵への攻撃に至らずとも、ハンとサラの傷を癒やしている事実に、ふたりは気づかない。
その雨こそ、サクへの力の教授の手本として見せた玄武自らの力であり、姿が小さいがために持続も威力もなく、飢餓として力の減少を体現させているのにかかわらず、それでもサクの想いを汲み取り、サクにも知らぬところで密やかに、癒やしの慈雨をハンとサラに与え続けているということは。
ふたりはただ、息子を傍に感じて嬉々としたから奮起出来ている、とだけだとしか思っていなかった。
愛する者には優しく、敵対する者には荒々しく――。
それが水の属性。
それが母性。
そして、母なるものを象徴するのは月。
ハンを含めて倭陵の民達は、幼き頃より聞かされている。
すべては……月の女神ジョウガの慈悲により、此の世は作られていると。
だからこの倭陵では、太陽である男神ではなく……月である女神が崇拝されているのだと――。