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吼える月
第14章 切望
そのジョウガが使わした神獣のひとつ、玄武。
神獣はおいそれと自らの力をひとには見せない。
ましてや牙の耳飾りを介して、武神将としての決定的な証を与えていないただの人間相手に、誇り高い神獣自ら力の指南などはありえない。
仮に将来を有望視していたとしても、神獣が武神将の要請に応じるのは、契約後のこと。矜持を崩してまで、助力する筋合いはないのだ。
もしも、サクがこんな短期間でここまでの力を操れたという理由に、代償を伴う嘆願の儀を通さず玄武直々の指南があったというのなら、今までのすべての慣習を却下し、新たなる"例外"を築くことを許せるほどに、サクに玄武を心酔させられるだけの力があったということ。
たとえ玄武が魔と融合した"新生"であろうとも、それを懐柔することがサクの命を長らえさせるために必要だったことであっても。
玄武としての自意識がある限り、未完成なサクの意見を聞き入れ、ほぼ対等の関係でいることに玄武が鉄槌を下さないのは、歴代の武神将、そして最強と呼ばれた自分との関係よりも、サクとの新たな関係に魅力を感じたということ。
――意識の主位は玄武みてぇなんだがよ、どうも亀ってされるのが気にくわねぇらしいんだ。
――あいつ俺の体をバキバキ骨砕いて、やりたい放題痛めつけてくれたけどよ、結構いいところあるんだ。イタ公と仲良くやってくよ。
――ああ、そう言えばイタ公、親父にネズミ貰って喜んでいたぞ。感謝の印に、おいしいところを親父に残したらしい。人間が食うかっての。あいつ常識ねぇのかな……
「は、はは……サク、お前だけだぞ。天下の玄武を厳格じゃねぇ……友のような愛玩動物として可愛がろうとしてんのは」
古より続く尊崇の念と慣習を好み、礼儀作法を重んじる…扱いが難しいとされる玄武が、そんなサクの態度を受けいれ、サクの意見を聞き入れているというのなら。
ありえないはずの変化が、瑞兆に思えて仕方が無かった。
きっと明るい未来がくる――。
凶々しい予言に染まり、古き因習に弱き者達を殺めた自分の罪もなにもかも、きっと新たなる武神将の活躍によって、この国自体、正しき道に変わっていけるだろう。