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吼える月
第14章 切望
その中には……玄武殿で見たような、しわしわで腹だけ膨らんだ醜い姿をさらすものもある。
サクに知らせようとしたが、集中させてくれと言われていたのを思い出して、ユウナは口をつぐんだ。
囲まれていたからといって、襲われるとは限らない……。
今はまだ大人しいし、まだ距離がある。
サクに危機を告げるのは後にしようと、ユウナなりに目で必死に餓鬼を威嚇していた時、天空が昏くなり雨が降った。
続いて――。
――なんだ、簡単なことじゃねぇか。ぐだぐだ難しいこと言わずに、もっと早くこうやって雨降らして見本みせてくれれば時間を無駄にしないですんだのに。
海が、大きな生物のようにうねっていた。
垂直となってうねる水流は、サクの手の動きに応じて移動する。
これは……サクの仕業なのか。
サクはいつの間に、あんな水の力を使えるようになったのか。
あの海水は、ハン達を護るために移動していることをユウナは悟り、驚きながらもユウナは笑みを零した。
さすがは、サクだ。
……感嘆しながら見守っている間、餓鬼に距離を詰められた。
ユウナも幼少より、多少であればハンより武芸をたしなんでいる。
サクの腰から飛び出ているのは、黒崙でサクが使った……サラの赤い刀。
それを抜けば、多分……あの時の、初めて会ったユマに突きつけた…あのような長い刀になるのだと思ったユウナだったが、刀の柄をサクから引き抜き、かけ声をかけても刃が出て来ない。
振ればいい原理を知らぬユウナの手の中の赤い柄は、まるで変化しない。
柄は柄のまま。
ならば、ここはこんな役立たずな武器に頼らずサクを護ろう。
未来の武神将を、自分が護るんだ。
使命感のようなものに燃え、しかし内心は怯えながら……拳に力を入れて数歩足を進めた時、後ろから襟首掴まれた。
――姫様、なにやってんですか。いいですから、俺に護られていてください!!