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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
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「ここに居たのか、サク……」
謁見の間から飛び出したサクが佇んでいたのは、サクがユウナと初めて会った、庭が眺望出来る廊の一角だった。
――ハン、その子だぁれ?
あれは、ハンが初めてサクを玄武殿に連れた時だった。まず初めに主たる祠官に挨拶をとしていたところ、先にユウナに見つけられたのだった。
――ああ、姫さん。これは我が息子のサクだ。頭が馬鹿だから、体だけでもなんとか鍛え中だ。未来に期待して、適当に遊んでやってくれ。サク、これがお前がお仕えするユウナ姫だ。
――姫、様?
――うふふ、ハンそっくり。まるで小さいハンね。よろしくね、サク。あたしユウナよ。仲良くしてね。
ユウナがサクに笑いかけたあの時、なんにでも物怖じしないサクが、真っ赤な顔で固まっていたことを、ハンはまるで昨日のことのように思い出す。
「なぁ、親父……」
哀愁漂わす息子の背中を眺め、物思いに耽っていたハンに、サクは背を向けたままで言った。
「俺……姫様が好きだったんだ」
それは初めて、サクが己以外の人間に口にしたユウナへの想いだった。
「親父に紹介された時、あの笑顔に一目惚れしちまってた」
「ああ……」
ハンは目を瞑って頷くと、昔のサクを思い出していた。
――俺、姫様の護衛頑張る!!
武神将の息子でありながら、怠け癖が激しく鍛錬嫌いのサクにハンが手を焼いていることを知る祠官が、その改善には自主性を高める"任務"を負わせた方がいいと、笑って勧めたのは姫の話し相手兼護衛役。
祠官の思惑通りに、サクは自ら体を鍛え始めた。
動機がどうであれ、今では次期武神将として誰もが認めるほど、サクは強くなったのだ――。
「俺が、姫様のあの笑顔を護るんだって思ってた」
「ああ……」
わかっていたといえども、息子から初めて聞く儚げな声音の切ない想いに、ハンは辛そうに顔を顰めながら、ただ相槌を打つしかできなかった。