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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
「リュカより先に、俺……姫様の傍に居たんだ。長く長く、リュカよりずっと一緒の時間を過ごしていたんだ……。
なんで俺、従僕として姫様と出会ってしまったのかなぁ……」
サクの行動を制する、従僕という名の枷をつけてしまったのは自分のせいだと、ハンは嘆いた。
息子の初恋――。
ユウナに一喜一憂する息子が可愛くて、時に茶化し時に煽り。それでもサクがユウナを手に入れたいと本格的に動き出した時には、応援してやるつもりでいた。
ユウナが姫であるがために障害があろうとも、サクが望む限り味方してやるつもりだった。武神将という立場を利用してでも。
だがサクは、ハンが思っていた以上に、そして父であるハン以上に、主従の立場を重んじる分別ある若者に成長していた。
ここまで育て上げた想いを飲み込むほどに――。
息子をここまで苦しめた責任は、自分にある……。
そう悔やむハンはサクの横に立ち、声を震わす息子の頭を自分の胸につけた。
「こうなるって前から予感してたんだよ。姫様と結ばれるのはリュカだって。俺の想いは叶わねぇって。
……動かなかった俺が悪いんだ。姫様に想いを伝えることもせず、決定的な場面が来るまではと女々しく諦めきれもせず。終焉を恐れるあまり、煮え切らねぇ態度でいた俺が悪いことは十分わかっている。だけど……」
そしてサクは、ハンの服を鷲掴みながら、吼えるように泣いた。
「俺――
ユウナに選ばれたかった――っ!!」
初めて口にした姫の名は、心に突き刺さるほど痛く。
それはハンの心をも抉った。
「俺……リュカも好きなんだ。
あいつ本当にいい奴なんだ。俺が唯一背中を預けられる、心からの友だ。そんなリュカだから……俺……。
リュカならきっと……俺の代わりに、ユウナを笑顔にして、幸せに出来ると思ったから」
サクが嗚咽を漏らした。
「……ちゃんと笑えてたかな。
俺、ちゃんとふたりを祝福できたかな……」
涙混じりのその声に、ハンもまた涙声で返す。
「ああ、お前は……立派だった。
お前の気持ちは、ふたりによく伝わっている」
「そうか……。
だったら、救われる。
今まで通り……俺はあのふたりの傍で、笑っていられる」
ハンは震え続ける息子の手を、その上から握りしめた。