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吼える月
第15章 手紙
「逝くな、逝くな、逝くな、逝くんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」
そして――。
「還ってこい、親父、お袋――っ!!!」
……消えた。
代わりに近づくのは……大きな岩が転がる険しい地面。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
サクが伸ばした掌から衝撃波が生じ、一度サク達の体は重力に逆らい上昇した。それは落下の速度をそぎ取り、そこからサクは宙に回転しながら、ストンと地面に両足をつけ……呼吸を整えた。
そして半目になって、ほぼ気絶しかけていたユウナに声をかける。
「大丈夫ですか、姫様」
優しく、それまでの慟哭を見事に掻き消して。
「ええ……なんとか。さすがはサクだわ。あの凄い崖を……って、サク?」
ユウナはサクの目から流れている涙に気づいて、慌ててその袖でサクの涙を拭う。
しかし拭いても拭いても、留まることを知らず。
慌てるユウナを見ながら、サクは微笑み……そしてユウナの手に軽く唇を寄せた。
「サ、サク!?」
「……俺には、姫様がいるからいいんです。寂しくなんか……ない」
微かに嗚咽を漏らし、まるでハンに怒られていじけて泣いている昔のサクのようで、ユウナは僅かに目を細めた。
「なにか……あったの?」
「親父にはお袋がいる。お袋にも親父がいる。だからどこにいても幸せだと……信じることにします」
「……ねぇ、サク。ハンとサラの身になにかあったの?」
ユウナは硬い表情でサクに尋ねた。
だがサクはそれには答えなかった。
「姫様、掴まってて下さい。イタ公の尻尾をちゃんと持ってて下さいよ、離しちゃだめですからね」
「え、は……きゃああああああ」
まるで自らの憂いを吹き飛ばそうとするかのような猛速度での駆け足に、ユウナは悲鳴を上げつつ……子亀の尻尾を掴もうとしたのだが、短すぎるためにその甲羅をがしりと掴む事にした。
『これ、やめぬか。くすぐったいではないか。これ……』
身を捩って悶えるイタチの様子には、誰も気づかなかった。