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吼える月
第15章 手紙
大型帆船の出航を告げる3度の長い汽笛が、鳴り終える――。
「待て待て待て待て――っ」
子亀(=白イタチ)を手に掴んだユウナを腕に抱いたサクが、蒼陵国に向けて出航しようとする大きな船に待ったをかける。
船へと続く木板の床を飛び跳ねるようにして走ってきたサク達に、大刀を交差させるように立ちふさがったのは、港の警護をする近衛兵だった。
「怪しい奴、なにものだ!!」
「乗り遅れたんだよ、乗せろよ、今なら乗れる!! 旅行だよ、黒陵国生まれの若者の初めての旅行!! ちょっと俺の……よ、よよよ」
「よよよ?」
「俺の、よよよ"嫁"が足捻って時間くっちまったんだよ!!」
しまった、妹にしとけりゃよかったと思いつつ、勢いで言ってしまった以上訂正するのもおかしい。貫き通すしかない。
かなり噛んでどもりながら言い切ったサクの"嫁"は、誰のことを言われているのか解せないという顔を向けていて。
「俺の嫁!! もういい加減に自覚してくれっ!!」
ユウナは、顔を沸騰させているサクから潤んだ目で睨み付けられ、ようやくそれが自分のことだと思い至った。
「よ、よよよ……」
「嫁!!」
「はい、そうです、か、彼の……よ、よよよ……嫁です」
ユウナもまた真っ赤な顔をして、こくこくと何度も頭を縦に振る。
真っ赤に染まる表情を崩さぬようにして、"夫"の威厳を演じているつもりのサクではあるが、その口元は緩んでいる。
そんな初々しいふたりに向けられるのは、胡乱な兵士達の目。
さらには惚気自慢のようにも見えるふたりに、こんな辺境の地の衛士を任せられた我が身を嘆く彼らは、怒りにも似た……沸々とわきあがるものを隠せない。
異様な眼差しに気づいたサクが慌てて、ユウナに"足が痛い"フリをしろと視線で促せば、目を暫し瞬かせていたユウナが足首に手を置き――、
「痛い、イタタタタタ……?」
これでいいのと聞いているように、語尾をあげてしまったユウナはの呻き声は、あまりに白々しいもので。
険しい顔をした兵士達は叫ぶ。
「怪しい、怪しすぎる!!」
その反応は正しいとサクもユウナも思う。