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吼える月
第15章 手紙
「怪しくないというのなら、手形を見せてみろ」
「手形?」
「ああ、我らが今日臨時に発行しているものだ。お尋ねものの国外逃亡を阻止せんと、検分してシロでなければ手形は発行されぬ」
サクは内心舌打ちした。
恐らくはリュカだろう。
足止め策を執行していたのか。
「……それを知らぬ? 検問所を通らずしてどこから来たんだ!!」
「て、手形な、思い出した」
「そうそう、私が落としちゃったの。足を怪我した拍子に」
「ならば見つかるまで探せ。船が出る前に」
「この場で再発行ということにしてくれよ。よよよ嫁が怪我してるんだ、情状酌量で」
「否。規則で認めておらぬ」
「イタタタタ。骨が折れているのかもしれないわ。ぜひ情状酌量で」
「ならば嫁は残り、夫が探せ」
「……ちっ、融通のきかねぇがっちがち頭め」
「本当ね。中央の兵士って、亀の甲羅より頭固いわ」
「……なにか言ったか」
「言ってねぇよ。な?」
「ええ、言ってないわ」
手形がない限り、会話で切り抜けるのは無理そうだ。
このままなら船が出てしまう。
ならばいっそのことこのふたりを叩きのめして飛び乗ろうとも思うサクだったが、サクは……無数の大砲に取り囲まれていることを感じ取っていた。
そこから明確な敵意を感じない現状は、恐らく彼らが命を受けた"お尋ね者"が暴れ出した時の為の待機隊なのであろうとサクは推察した。
ここで"お尋ね者"だということが露見してしまっては、砲筒が自分達に向けられるだろう。
あの大砲の輝き具合は、輝硬石で作られたもの。
その威力はどれほどなのかわからない。
覚え立ての玄武の力で応戦したとして、どこまで効果があるものか。
その間にでも、船を繋いでいる綱がするすると解けていくのが見え、事態は急な決断を要した。
手形とやらを取りに行く暇もない。
ならば、叩きのめすしかないか。
「お前、"お尋ね者"のサク=シェンウと、黒陵国の姫だな?」
兵士達の目の色が段々と緊張感満ちた敵意となってくる。
「もしそうであれば、船を壊してもいいと命が出ておる」
ふたりの兵士のうちのひとりが、大砲隊に合図しているのがわかる。