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吼える月
第15章 手紙
事態はさらに深刻で。
大砲の対象は自分達だけではなく、船にまで及ぶらしい。
「そんな、大体船にはあんなに多くのひと達が……」
ユウナの声に、兵士のひとりは薄笑いを顔に浮かべた。
「知ったこっちゃない。上の命令に従順であるのが我が近衛兵の務め。黒陵如き田舎の兵とは鍛えられ方が違う。だから兵士に裏切り者など出るのだ。なぁ、サク=シェンウ?」
サクは怒りを抑えながら考えた。
このまま自分は別人だとシラを通して口先で戦うか、罪なき者達の命とこの国から脱出できる唯一の船を失う覚悟で、力尽くで突破するか。
さあ……どうする?
親父なら、お袋なら……どうする?
その時声がした――。
『ネズミが食いたい……』
くったりとしたまま、死にそうな口調で。
「………」
眉間に皺を寄せて目を瞑ったサクは、あえて無視した。
『これ、ネズミ……。ネズミをもってこぬか。小僧、力が戻ったのなら、力でわんさかネズミを……』
サクのコメカミにぴきんと青筋が立つ。
「うるせぇよ、イタ公。俺の力はネズミ寄せのためじゃねぇよ!! 親父に失礼だろうが!!」
サクがユウナの持つ……白イタチに向けて叫ぶと、兵士達はぎょっとした顔をサクに向けた。
「おい。その亀はなんだ!!」
「黒陵国は、亀を信仰する国。亀に対するそのぞんざいな扱い……と見せかけ、この男は、この亀を使ってなにかしでかす気じゃ……」
『……おい小僧。亀、亀と呼ばれているのは誰のことか』
サクにだけ見える白イタチの玄武は、まだ微睡んでいるような目をくりくりと動かし、眠そうに欠伸をした。