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吼える月
第15章 手紙
「サクが悲しい時、あたしは役に立てないの? サクがあたしを助けてくれたように、あたしがサクを助けてあげることは出来ないの?」
「姫様……」
ユウナはしっかりとサクの腕を掴んで言った。
「あたしに出来ることを言って。お願いだからあたしを排除しないで。あたしになにかさせて。あたしに我が儘言ってみて」
思えば……サクは今までも我が儘を言ったことはなかった。
ハンに似て口は悪く態度は大きいが、黒陵の姫の我が儘にはいつも振り回されて口喧嘩のようなことはしても、サクから私欲に満ちた願いを持ち出されたことはなかった。
サクはいつでも、自分に近い臣下だった。
「今のサクは無職なんだから。あたしにどんな我が儘でも言える身分よ? ふふふ、なにかおかしいわね。臣下よりも無職の方が強そうに思う」
「………」
サクがなにも言わず、サクの腕を掴むユウナの手を反対の手で握りしめた。
「なんでも……いいのなら……」
「ええ、なんでもいいわ。だけどひとつね」
「……姫様、がめついです」
「そう? じゃあ特別にふたつにしてあげる。大盤振る舞いよ。ほらほら言ってみなさい?」
「だったらひとつ聞きたい――」
「ん?」
「姫様……」
帽子越しに、縋るようなサクの目があった。
「1年前、俺を選ばなかったのはなぜですか」
「え?」
その目は、ぎゅっと苦しげに細められる。
「教えて下さい。姫様が祠官への返答を躊躇った後に、姫様が俺を選ばなかったその意味を――」
そんな時だった。
「ちょっと、なにあれ!!」
甲板に立っていた若い女が、悲鳴のような声を上げたのは。
はっとして立ち上がったサクとユウナは、そこで見た。
……そして聞いた。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
「「餓鬼――っ!?」」
港を血に染める異形の群れを。